所得部分について事業所得なのか、雑所得かは度々問題になるものです。事業所得になるか、事業所得に該当しないかについては、税法理論で考えると単純なものなのかなと言う受け止め方を私はしています。
しかし、課税庁側から見ると、これら2つのどちらかに該当するかによってかなり所得税の納税額が変わってきます。そのためかなり厳しい目線で事業所得かどうかというのを判断しています。
近年副業を行う方が多いですが、副業だからといって、何でもかんでも事業所得にしておくと、税務署の判断と異なる場面に出くわすはずです。
事業所得の性質
定義
事業所得の定義は裁判所の判例から決められています。
「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」
最判昭和 56 年4月 24 日
「自己の計算と危険」とあるのは、損をしたら、その人が責任を被るという意図です。給与の場合、会社で営業交渉に失敗しても、社員がその損害を保障するものではないです。だから、責任の度合いが異なります。反復・継続という点もよく見られます。「今年、一発だけ取引をしたから事業だ」というのは、ちょっと乱暴で、その仕事を継続的に続けている必要があります。
具体的イメージ
事業所得は、日本の所得税法で定められる10種類の所得の一つで、そこから青色申告・白色申告の対象になります。
主なポイント:
- 対象となる事業例: 小売業、飲食業、製造業、サービス業、フリーランス(デザイン、プログラミング、コンサルなど)、農業・林業・漁業、請負業など継続性・独立性がある事業
- 事業所得の計算式: 総収入金額 − 必要経費
- 必要経費には仕入、外注費、家賃、光熱費、通信費、消耗品費、減価償却費、旅費交通費、広告宣伝費、人件費などが含まれる
- 事業所得に該当しない例:
- 給与所得(会社からの給料)
- 雑所得(単発の副業や継続性が薄い収入など)
- 不動産所得(賃貸による家賃収入)
- 譲渡所得(資産の売却益)
- 青色申告のメリット(事業所得なら選択可能):
- 青色申告特別控除(最大65万円)
- 赤字の繰越控除(最大3年)
- 家族への給与の必要経費算入(青色事業専従者給与)
- 30万円未満の少額減価償却資産の即時経費化など
- 申告の実務:
- 会計帳簿の作成(複式簿記推奨)
- 領収書・請求書の保存
- 年1回の確定申告(通常2/16〜3/15)
- 消費税の課税事業者判定(2年前の課税売上高1,000万円超など)
所得の性質なのか、人物の性質なのか
事業所特に該当すれば、損失の繰り越しだったり、青色申告特別控除で650,000円の所得を減らすことができるなど特典が大きいです。だからこそ人はできる限り事業所特に該当すると主張したくなります。
一方で、税務署側は、事業に該当するかを本当に吟味する必要があります。
よくある疑問点として、以下のようなチェックがされます。
- 継続的・反復的に収入を得る目的で行い、独立してリスクを負っているか → 事業所得
- たまに単発で受けた仕事や趣味の延長で少額の収入 → 雑所得になりやすい
- 会社から雇用契約に基づく賃金 → 給与所得
これに加えて、近年大切なのは、その人の属性です。会社勤めをしながら副業している場合、本当にその人はリスクを背負って仕事をしているのかという概念がもたれやすいです。
研究をしていた上からするとちょっと不思議なのですが、この人物属性と言うのは法律上に定義されたものではないと考えます。例えば、同じ仕事をしていて、片方がもう1個仕事を持っていた場合、その仕事が事業所得になるのか、雑所得になるのかが分かれると言うのはちょっと不思議な感じがします。法律の立て付けとしてもその違いがわかっているからこそ、所得の性質によって所得分離をしているのです。誰がその所得を得ているかによって、所得の性質を逆算する事はしないはずです。
しかし、実務上はそうもいきません。税務署側から見れば、給与所得のプラスと事業所得の赤字部分を相殺して、脱税間の行為をする人が前例で出ており、その対策が必要と考えています。
だからこそ、売り上げで3,000,000円以上持っていなかったら、反証や記録等がなければそれは雑所得に当たるんだと言うような基本方針を発表したりもしました。申告者側も注意が必要です。
立証責任はどこにあるか
「税務署側は、何でもかんでも、税金を課したがるんだ。だから、税務署のいうことをそんなに真剣に必要はないんだ」という納税者側の意見の気持ちは共感します。しかし、税務署側も適当に処理をしているのではなく、法律に基づいて徴税をしているのです。
だから、上記の発言をする納税者も、その事実をどちらが立証するべきかは、きちんと理解しておく必要がああるでしょう。大切なポイントをまとめます。
立証責任のポイント
- 事業所得かどうかの立証責任:原則として納税者側に重い(自己申告制度のもと、必要経費・事業性の根拠資料を備え、説明する義務がある)。
- 脱税が「意図的(故意)」かの立証:課税庁側(税務当局)の責任。重加算税や刑事罰を適用するには当局が故意・仮装隠蔽等を立証する必要がある。
事業かどうかの立証は、納税者側
日本の所得税は「申告納税制度」です。だから、納税者側が所得区分で「事業・雑所得・給与など」どれに当たるかを判断します。また、必要経費、青色申告の適用要件などを満たしていることを根拠資料(帳簿、請求書、契約書、取引記録、継続反復性・独立性を示す資料など)で示す必要があります。
「なんとなく、事業」では、不十分です。事業所得の認定では、営利性・継続性・独立性・人的・物的設備の有無、取引の規模や態様、収益獲得のための組織性等が総合判断されます。これらを裏付ける資料の提出・説明は納税者側の役割です。
税務調査で争いになった場合、課税庁は更正処分の理由を示す義務はありますが、事業性の要件充足を積極的に証明するのは本来納税者の側。裁判でも、青色申告特典(専従者給与や純損失の繰越控除等)の適用要件、必要経費該当性の立証は納税者に求められます。
事業性の客観的な事実として、以下のもので補強することがあります。単に、パソコン一台あるからいいとはなりません。ただし、あくまで補強条件であって、これらを持っているから事業所得と認められるものではないです。というのも、免罪符のように使われてしまうと、脱税を促す要件になってしまうからです。
- 広告宣伝活動の有無
- 事業用の名刺
- 事業用のオフィス
- 事業用の電話回線の有無
- 事業用のコピー機
意図的な脱税かどうかを立証するのは、課税庁側
一方で「脱税が意図的か(故意・仮装隠蔽があるか)」という論点は、課税庁側です。
というのも、意図的と見ると、重加算税という重い税金を課せられるからです。
| 過少申告(期限内に申告したが税額が少なかった場合) | 35% |
| 無申告(期限内に申告しなかった場合) | 40% |
| 源泉所得税の不納付 | 35% |
だから、行政処分の場面では重加算税(仮装・隠蔽行為がある場合)の賦課のために課税庁がその要件事実(仮装隠蔽、故意性を基礎づける具体的事実)を立証する責任を負います。単なる記帳誤りや認識違いでは重加算税の要件を満たさないため、当局側の立証が不十分なら重加算税は取り消され得ます。
また、税金を払うかどうかだけでなく、刑事事件の場合は、また色合いが異なります。所得税法違反、法人税法違反などでは、検察側が「故意で租税を免れた」ことを合理的疑いを差し挟めない程度に立証する必要があります。意図的でない過失レベルだと有罪要件を満たしません。ここも、被疑者にとってかなり話が変わってしまうので、厳密に取り扱われます。
まとめ
副業が流行っていますが、事業所得に認めてもらうには、きちんとした準備が必要です。
多様な働き方がでてきており事業所得になるだろうというものがあっても、法律はこれまでの判断の積み重ねです。新しい働き方についていってすぐにアップデートされるわけではありません。疑いがあっても、きちんと対応できるように反証を用意しておきましょう。




