消費税0%の食品を使って、車の消費税を軽くできるのでは?

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執筆者小嶋 晃弘

◆国際基督教大学卒、大阪府立大学大学院経済学研究科修了。税理士、MBA、宅地建物取引士。国際営業、経理、労務、採用、人事、IT管理など幅広い分野での実務経験があります。 ◆税理士の顧問サービスの他、企業オーナーや個人事業主に対して資産運用コンサルティングや税務サポートを提供。金融教育の重要性を感じ、税務関連の執筆活動にも取り組んでおり、税務に関する書籍や記事を執筆しています。 ◆プライベートでは、2人の男の子の父。趣味は水泳、読書、カメラ、アニメで、休日には息子たちと一緒に自然を楽しんでいます。

2026年2月9日

2026年2月9日

    食品減税を使って消費税を下げられる?

    これから食品の減税がされる予定です。
    食品に対しての消費税率と0%にして、一般の方の消費税の負担を下げようと言う試みです。

    「食品の消費税が軽減されるなら、それをうまく使って高額商品の消費税も下げられないか?」

    そんな相談を受けることがあります。


    今回は、一見もっともらしく見えるものの、消費税法の仕組みと明確に矛盾するスキームを題材に、
    どこが問題なのかを整理してみます。

    スキームの説明

    前提として、ここでは説明を分かりやすくするために
    「飲食料品の消費税率が 0%になった世界」を仮定します。

    取引の流れ

    【図:取引の全体像】

    1 松茸を 5,000,000円で販売
    食品のため消費税率 0%
    請求額:5,000,000円(消費税 0円)
    2 購入者に「車購入時に使える 5,000,000円分のクーポン」を付与
    3 後日、同じ顧客に車を 6,000,000円(税抜)で販売
    本来の税込価格:6,600,000円(消費税 600,000円)
    4 クーポン 5,000,000円を使用して購入
    税別で考えると、支払額は6,000,000円-5,000,000円
    預かる消費税は10万円で済むのでは?

    一見もっともらしい“誤ったロジック”の紹介

    このケースで、実際に聞いた説明が次のようなものです。

    クーポンは「値引き」なのだから、
    車 6,000,000円 − クーポン 5,000,000円 = 1,000,000円

    よって、消費税はこの 1,000,000円に対する 100,000円だけでよい。

    表面的には、

    • レシート上の支払額が小さく
    • 「値引き後の金額に課税する」という直感にも合う

    ため、一見それらしく見えます

    しかし、この考え方は消費税の基本構造と明確に矛盾します。

    経済的実態から見た問題点

    このスキームの最大の問題は、
    「経済的な利益の移転」を無視して、形式だけを“値引き”と呼んでいる点です。

    クーポンの正体は何か?

    この 5,000,000円クーポンは、

    • 無償で配られたものではない
    • 松茸 5,000,000円の購入とセットで付与されている

    という点が重要です。

    つまり、事業者側から見れば、

    顧客はすでに 5,000,000円を支払っており、
    その金額が後日の車購入代金に充当されている

    という構造になっています。

    言い換えると、

    • 松茸の販売:名目
    • 実態:車購入のための前払い(デポジット、商品券購入)

    に非常に近い取引です。

    実質的な車の対価

    車について顧客が支払っている金額は、

    • 事前に支払った 5,000,000円(クーポン)
    • 当日支払う残額 1,600,000円

    合計すると、車 6,000,000円(税抜)に対応する対価をすべて受け取っています。

    単に「支払タイミング」と「表示方法」が分かれているだけで、
    経済的には 値引きではなく、対価の一部充当です。

    クーポンだと言い張る場合

    いや、前払いじゃなくて、別の取引で一般的なクーポンの取扱いだと言い張るケースも考えられます。
    しかし、以下の点に注意する必要があるはずです。

    • メーカー発行クーポン(いわゆるメーカークーポン)の場合
      • 小売店は店頭価格からクーポン相当額を値引きして販売するが、課税標準は原則「値引前の店頭価格」。
      • メーカーのクーポン精算は、対価性のない「売上対価の返還」に該当し、消費税法38条の「売上に係る対価の返還」に位置づけられています。
    • ポイント使用や値引き時の取扱い
      • クーポンによる値引きは、「売上値引き」として処理し、値引き後の金額を課税標準とするが、ここでいう値引きは「本来の対価から自社の負担で減額する」ものです。
      • 顧客が自分の懐から別の形で支払っている金額(商品券や前払金など)は、値引きではなく「対価の支払い」です。

    こちらの考え方であっても、「顧客が以前に支払った5,000,000円を車代に充当している」ものです。
    「自社が一方的に値引き負担している」のではないので、典型的な「売上値引き」とは全く違います。

    消費税法上の整理

    「対価を得て行われる」の意味

    消費税は、

    対価を得て行われる資産の譲渡等

    を課税対象としています。

    ここでいう「対価」とは、

    • 現金で受け取ったかどうか
    • レシートにどう表示されているか

    ではなく、

    経済的に見て、反対給付として受け取った金額

    を指します。

    クーポンと値引きの違い

    一般論として、

    • 自社負担の値引き
      → 値引後の金額が課税標準
    • 顧客が別の形で支払っている金額(前払金・商品券・ポイント等)
      → 値引きではなく「対価の支払い」

    と整理されます。

    いわゆるメーカークーポンの場合でも、

    • 消費者との取引の課税標準は原則「値引前価格」
    • メーカーから小売店への補填は「売上に係る対価の返還」

    という整理がされています。

    今回のケースでは、

    • 5,000,000円は事業者が一方的に負担した値引きではない
    • 顧客が事前に支払った金額を車代に充当している

    以上、典型的な「値引き」には当たりません

    課税標準はどうなるか

    したがって、車の課税標準は、

    • 表示上いくら値引きされていても
    • クーポンという名称が付いていても

    車 6,000,000円相当が正しい、という結論になります。

    「6,000,000円 − 5,000,000円 = 1,000,000円だけに課税する」という説明は、

    • 経済的に受け取った対価を無視し
    • 値引きと前払金を混同した

    消費税法の仕組みと明確に矛盾する考え方です。

    まとめ

    食品減税や軽減税率を使っても、

    • 形式だけを分解する
    • 名称を「クーポン」「値引き」と言い換える

    だけで、消費税の課税関係が変わることはありません。

    消費税は一貫して、
    「経済的実態として、何に対して、いくらの対価を受け取っているか」
    で判断されます。

    形式だけをいじっても、経済的実態から見れば課税関係は変わらないです。

    無理なスキームは、

    • 税務調査で否認されるリスク
    • 場合によっては「誰がその説明をしたのか」まで問われるリスク

    を含んでいます。

    「うまい話」に見えるときほど、一度立ち止まって実態から考えることが重要です。

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