食品減税を使って消費税を下げられる?
これから食品の減税がされる予定です。
食品に対しての消費税率と0%にして、一般の方の消費税の負担を下げようと言う試みです。
「食品の消費税が軽減されるなら、それをうまく使って高額商品の消費税も下げられないか?」
そんな相談を受けることがあります。
今回は、一見もっともらしく見えるものの、消費税法の仕組みと明確に矛盾するスキームを題材に、
どこが問題なのかを整理してみます。
スキームの説明
前提として、ここでは説明を分かりやすくするために
「飲食料品の消費税率が 0%になった世界」を仮定します。
取引の流れ
【図:取引の全体像】
- 1 松茸を 5,000,000円で販売
- 食品のため消費税率 0%
請求額:5,000,000円(消費税 0円)
- 2 購入者に「車購入時に使える 5,000,000円分のクーポン」を付与
- 3 後日、同じ顧客に車を 6,000,000円(税抜)で販売
- 本来の税込価格:6,600,000円(消費税 600,000円)
- 4 クーポン 5,000,000円を使用して購入
- 税別で考えると、支払額は6,000,000円-5,000,000円
預かる消費税は10万円で済むのでは?
一見もっともらしい“誤ったロジック”の紹介
このケースで、実際に聞いた説明が次のようなものです。
クーポンは「値引き」なのだから、
車 6,000,000円 − クーポン 5,000,000円 = 1,000,000円よって、消費税はこの 1,000,000円に対する 100,000円だけでよい。
表面的には、
- レシート上の支払額が小さく
- 「値引き後の金額に課税する」という直感にも合う
ため、一見それらしく見えます。
しかし、この考え方は消費税の基本構造と明確に矛盾します。
経済的実態から見た問題点
このスキームの最大の問題は、
「経済的な利益の移転」を無視して、形式だけを“値引き”と呼んでいる点です。
クーポンの正体は何か?
この 5,000,000円クーポンは、
- 無償で配られたものではない
- 松茸 5,000,000円の購入とセットで付与されている
という点が重要です。
つまり、事業者側から見れば、
顧客はすでに 5,000,000円を支払っており、
その金額が後日の車購入代金に充当されている
という構造になっています。
言い換えると、
- 松茸の販売:名目
- 実態:車購入のための前払い(デポジット、商品券購入)
に非常に近い取引です。
実質的な車の対価
車について顧客が支払っている金額は、
- 事前に支払った 5,000,000円(クーポン)
- 当日支払う残額 1,600,000円
合計すると、車 6,000,000円(税抜)に対応する対価をすべて受け取っています。
単に「支払タイミング」と「表示方法」が分かれているだけで、
経済的には 値引きではなく、対価の一部充当です。
クーポンだと言い張る場合
いや、前払いじゃなくて、別の取引で一般的なクーポンの取扱いだと言い張るケースも考えられます。
しかし、以下の点に注意する必要があるはずです。
- メーカー発行クーポン(いわゆるメーカークーポン)の場合
- ポイント使用や値引き時の取扱い
こちらの考え方であっても、「顧客が以前に支払った5,000,000円を車代に充当している」ものです。
「自社が一方的に値引き負担している」のではないので、典型的な「売上値引き」とは全く違います。
消費税法上の整理
「対価を得て行われる」の意味
消費税は、
対価を得て行われる資産の譲渡等
を課税対象としています。
ここでいう「対価」とは、
- 現金で受け取ったかどうか
- レシートにどう表示されているか
ではなく、
経済的に見て、反対給付として受け取った金額
を指します。
クーポンと値引きの違い
一般論として、
- 自社負担の値引き
→ 値引後の金額が課税標準 - 顧客が別の形で支払っている金額(前払金・商品券・ポイント等)
→ 値引きではなく「対価の支払い」
と整理されます。
いわゆるメーカークーポンの場合でも、
- 消費者との取引の課税標準は原則「値引前価格」
- メーカーから小売店への補填は「売上に係る対価の返還」
という整理がされています。
今回のケースでは、
- 5,000,000円は事業者が一方的に負担した値引きではない
- 顧客が事前に支払った金額を車代に充当している
以上、典型的な「値引き」には当たりません。
課税標準はどうなるか
したがって、車の課税標準は、
- 表示上いくら値引きされていても
- クーポンという名称が付いていても
車 6,000,000円相当が正しい、という結論になります。
「6,000,000円 − 5,000,000円 = 1,000,000円だけに課税する」という説明は、
- 経済的に受け取った対価を無視し
- 値引きと前払金を混同した
消費税法の仕組みと明確に矛盾する考え方です。
まとめ
食品減税や軽減税率を使っても、
- 形式だけを分解する
- 名称を「クーポン」「値引き」と言い換える
だけで、消費税の課税関係が変わることはありません。
消費税は一貫して、
「経済的実態として、何に対して、いくらの対価を受け取っているか」
で判断されます。
形式だけをいじっても、経済的実態から見れば課税関係は変わらないです。
無理なスキームは、
- 税務調査で否認されるリスク
- 場合によっては「誰がその説明をしたのか」まで問われるリスク
を含んでいます。
「うまい話」に見えるときほど、一度立ち止まって実態から考えることが重要です。




