事業所得と雑収入の区分の通達変更。
ニュースでは比較的取りだたされています。
ただ、大したことは言っておらず、税理士から見れば「今までと判断基準が変わりませんね」と。
課税庁側も当初の300万円の原則基準について出したものの、あくまで原則。
反証する内容があれば、300万円未満であっても事業所得で申告可能でした。
トーンダウンして、帳簿を挙げましたが、それも大きな論点にはなりません。
今までと基準は変わりません。
変わらないという点だけでもおさえておきましょう。
間違った通達解釈が流れていることに注意
以下、Yahooの記事を拝謁しておりますが、以下は参考にしないでください。
・本業か副業かは問わず、記帳・帳簿書類の保存をしていれば、事業所得として区分できます。(逆に、記帳・帳簿書類保存をしておらず、かつ収入300万円以下の人は、一律に雑所得として区分されることになります。)
帳簿保存で300万円以下の副業も事業所得に。フリーランス安堵の声/プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表 平田麻莉 2022/10/7(金) 14:49更新
・事業に関係ない支出を経費計上した場合に、必要経費の否認がなされる可能性は従来と同じですが、記帳・帳簿書類の保存があれば、事業性そのものを否認されることは基本的にありません。
・発注者から帳簿書類の提供が無く、現金支払いを受けている場合は、取引発生都度、自分で帳簿を付けておくことが必要です。
(下線は追記)
「記帳・帳簿書類の保存をしていれば、事業所得として区分できます。」は明らかに間違いです。
もしこの説明に従えば、帳簿をちょいちょいと用意すれば、例えば数万円程度の所得でも事業所得にできます。
青色申告特別控除で55−65万円の控除を受けます。
副業として給与所得と相殺すれば、所得税が下がります。
給与所得しかない人と均衡が取れませんね。
通達の確認
おかしな解釈をする前に、今回指摘された国税庁の通達を確認してみましょう。
(注)事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。
令和4年10月7日 「所得税法基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)
下線は筆者
要所に分解すると
- 事業所得と認められるかどうかは、…社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定
- その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合には、業務に係る雑所得に該当することに留意
- その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。
1 社会通念上事業と称する程度かで判定
所得税法において、事業所得と雑所得を分ける上でよく出てくる言い方です。
国税庁が決めたのかといえば、そうではないです。
社会通念で事業となるかを裁判所がその判断で使っています。
判例で出てくる内容を使っており、国税庁が勝手に判断基準に仕立て上げているわけではないです。
仮に国税庁が勝手に判断にしていて、裁判所が別の判断基準を持っている場合、訴訟にあげれば国税庁の判断が全て覆される自体になってしまいます。
そういうリスクを国税庁はとらないでしょう。
2帳簿書類の保存がない場合には雑所得
「帳簿書類の保存がない場合には、雑所得に当たる。」というのはとても当然な判断です。
帳簿をつけるというのは、損益を管理している状態です。
事業をしているのに損益を管理していないというのは通常ではないでしょう。
損益の概念なしに活動していて、事業ですというのは、整合性が取れないです。
ですから、帳簿書類がない場合には、雑所得になるという。
それが今回の判断です。
ただ、「帳簿がない=雑所得」と全てが割り切れるわけではありません。
帳簿がなくても1の基準で事業という実体が認められるのであれば、事業所得です。
その例外を補足しているのが、下記3の基準です。
3帳簿がなくても事業所得の認定がされる場合がある
その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合は、雑所得ではなく事業所得です。
このように通達を分解してみるとわかりますね。
帳簿があれば事業所得?
ここまで通達の解説を呼んでもらえれば帳簿があったら即事業所得になるというのは間違いだとわかってもらえたでしょう。
いろいろな説明を聞いて間違わないように、そして、事業所得としたければ、ビジネスモデルからちゃんと作っておくべきと考えます。
事業所得と雑所得の解釈は租税法でもメジャーな論点
事業所得と雑所得の区分というのは、租税法でもめちゃめちゃメジャーな論点です。
どうして論点になるかというと、事業所得になった方がお得な特典がつくから。
青色申告特別控除や配偶者特別控除が使えるからです。
所得が多くなると、どうしても税額を減らせないかという誘引を受けます。
医師が服のレンタル事業を行っていたとして事業所得申告をして否定された件などがその例です(税務訴訟資料 第262号-117(順号11967)。
132万円ほどの還付金を裁判で否定されています。
ここでは詳細はおいておきますが。
通達は法律でないし、理論をそこまで無視しない
ちなみに通達は法律でないというのは、租税法でよく出てくる論点です。
通達部分が法令でないため、その効力を持たないと考えるのであれば、訴えることが可能です。
それに対して、法令はその判例の積み重ねです。
組織内通知である通達と、裁判所の判断の積み重ねである判例のどちらが効力を社会的に持つか、判断は簡単でしょう。
また、税は租税法という理論があり、課税庁が好きに解釈できるわけではないです。
勝手な法律は評判が悪いし、学者からも批判がされることがあります。
もちろん、裁判所の判断についても一家言あることもありますが。
急に通達が変わったからといって悩む必要はないです。
また、今回の通達の改正については特に新しいことを言っているわけではなく、ちゃんとした事業を営んでいれば事業所得として申告できます。
詳細に確認したい場合は税理士に相談してくださいね。