デジタル時代においては、給与の支払い方法もデジタル化が進んでいます。従来の現金ベース、銀行振込から、デジタル給与への移行が進んでいます。デジタル給与は、2023年4月1日から法的に解禁されることから、多くの企業で導入の検討がされています。しかし、一方で、メリットだけではなく、デメリットも存在します。本記事では、デジタル給与のメリット・デメリット・導入理由について詳しく解説します。
デジタル給与とは何か?
デジタル給与とは、従業員が銀行以外の資金移動業者が管理するキャッシュレス決済口座へ給与を振り込んでもらうものです。代表的なものにPayPay、LINE Pay、楽天Payなどスマートフォンの決済アプリに給与の支払い金額を振り込んでもらえる仕組みです。なお、消費者にはあまり関係がないのですが、銀行法でどのように規制がされているかが大きな違いです。
従来の給与とは異なり、現金・銀行口座として手渡されることはなく、デジタル支払いという形で支払われます。このような給与のデジタル化は、キャッシュレス決済の普及や新型コロナウイルス感染症の拡大の影響などが背景にあり、企業イメージの向上や支払手数料の削減などが期待されています。業者側からの要望も考えられます。同じく資金移動を預かるのにもかかわらず、銀行には給与振込を認めて、他方には認めないのは公平ではありません。銀行口座を持たない従業員にとってもメリットがあり、振込手数料の削減にもつながるため、要件がそろえば導入しようと考えるものでしょう。
デジタル給与の法整備の導入理由
デジタル給与の法整備を進めた理由はいくつかあります。まず一つ目は、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化していることが挙げられます。今回の整備は強制ではなく、選択していいという制度です。これまでは選択したくてもできない状態だったものを変更する法整備です。二つ目として、キャッシュレス決済での決済は手数料が少なく、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用する要望が一定程度見られることが挙げられます。また、企業側にとっても、従業員への支払いに伴うコストを削減することができるため、費用の削減につながります。
個人事業主などの動きも考えれば、銀行振り込みやりもスピーディーかつ正確な支払いを行うことが可能となるため、従業員の満足度向上にもつながることが期待されています。
デジタル給与のメリット・デメリットとは?.
デジタル給与のメリットを確認してみましょう。
- 銀行口座を持たない従業員でも給与支払いができる
- 資金移動業者の口座への送金は通常の銀行振り込みよりも手数料が安い
- デジタル給与は海外の家族に送金しやすく、外国人労働者にとっても便利
- 雇用主にとってもメリットの手数料の削減
- 従業員の多用なニーズに応える
- 分割して給与を受け取れる可能性
デジタル給与の導入によって、銀行口座を持たない従業員にとってもメリットがあります。従業員が銀行口座を持っていない場合、給与の支払いが不便な場合がありますが、デジタル給与ではそれが解決されます。同時に、従業員は資金を移動することなく、給与を電子マネーとして利用することができます。また、外国人労働者にとっても、デジタル給与の導入により、母国に送金する手数料が削減されるため、経済的な負担を軽減することができます。企業側も、従業員の利便性向上によって、生産性を向上させることができます。結果的に、銀行口座を持たない従業員にとっても、デジタル給与の導入によるメリットが多くあります。
デメリットはどうでしょうか。
- セキュリティの問題
- マネーロンダリングの問題
- 口座を作れない人(外国人)に送金する可能性
- 雇用主側として対応数が分かれることにより手間が増える
- 会計で口座残高を確認する手間が増える(残高証明書は有料(PayPayの例))
- 給与システムとの連携の手間がかかる
どこの資金移動業者が対応する?
2023年4月1日以降の発表です。PayPay、auPayなどが挙げられます。更新・発表され次第追記いたします。
導入予定の会社は多いのか?
朝日新聞が2022年11月日に行った調査は以下のとおりで、4%が検討中ということです。
朝日新聞が昨年(2022年)11月に全国主要100社にアンケートしたところ、「導入を検討している」と回答した企業は4社
デジタル給与「導入検討」4社 主要100社調査 (2023年1月12日 5時00分) 「(2022年)は筆者が追記」。
日本の他の会計や税務関連の企業の対応が遅いので、4%を見て少ないと判断するのは早計です。例えば、振込手数料が無料であるなら、パート社員に対してデジタル給与を受け取った場合に、月の振り込みを2回行うとしたらどうでしょうか。よろこぶ人もいるでしょう。他社の動向もそうですが、自社のニーズに合うかも検討してほしいところです。
振込手数料を削減できる理由とは?
デジタル給与の導入には、給与の支払い時にかかる振込手数料を削減できるメリットがあります。従来の銀行振り込みの場合、1件ごとに手数料がかかってしまうため、従業員数分の手数料負担が必要でした。しかし、デジタル給与の場合は、振込手数料が無くなるか、銀行振込よりも安価なため、このような負担を軽減することができます。
たとえば、PayPayの場合、執筆現在(2023/03/30)基本料金も振込手数料も無料です。対比として、みずほ銀行の同行宛給料の手数料は110円、他行宛であれば、330円です。これがなくなると考えれば大きいかもしれません。
また、手数料だけでなく手間も同様です。スマホでさっと送って終わりたい個人事業主もいるでしょうから、その相性がいいです。
デジタル給与の問題点とは?
デジタル給与の導入には、一部の問題点が存在します。これらは、従業員側からの懸念が多く寄せられています。一例としては、資金移動業者が破綻した場合における安全性の担保や、個人情報の取り扱いについての不安があります。また、従来の給与支払いに慣れている従業員にとっては、新しいシステムに適応するための負担や手続きが発生する可能性があります。また、企業側にとっても、システムの構築・運用に必要な費用や、従業員研修などのコストがかかることがあるため、導入には注意が必要です。
ただし、すでに対応がされている部分があります。厚生労働省の回答を以下に短くまとめます。
- Q: 賃金のデジタル払いは強制でしょうか?引き続き、銀行口座等で受け取れますか?
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賃金のデジタル払いは選択肢の1つであり、労働者が希望しない場合は、引き続き銀行口座等で受け取ることができます。強制されることはありません。
- 賃金のデジタル払いを選択した場合、ポイントや仮想通貨などで賃金が支払われることがありうるのでしょうか。
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現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払は認められません。
- いつから賃金のデジタル払いが可能?
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令和5年4月1日から資金移動業者が指定申請を行えます。審査後、事業場で労使協定を締結し、労働者が同意書を提出すれば、賃金のデジタル払いが可能になります。
- 賃金のデジタル払いをするときに、事業場で必要な手続きは?
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労使協定を締結し、賃金のデジタル払いを希望する労働者は留意事項等の説明を受け、同意書に必要事項を記載して提出することが必要です。
- どの資金移動業者を選択できますか。
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厚生労働大臣が指定した資金移動業者の中から選択できます。
- 留意点はありますか?
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労働者は資金移動業者口座を支払や送金に用いることを理解し、適切な額を受け取るようにしてください。使用者は、銀行口座や証券総合口座の選択肢も提示し、留意事項を説明してください。
- 資金移動業者が破綻した場合、アカウント残高は消えるのでは?
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指定資金移動業者が破綻した場合でも、賃金受取に用いる口座の残高は保証機関から速やかに弁済されます。具体的な弁済方法は、資金移動業者ごとに異なりますので、賃金のデジタル払いを選択する際にご確認ください。
以上のように、資金移動業者が破産した場合の保証など、対策が取られているところがすでにあります。
労使協定・同意書のひな型は?
労使協定のひな型は厚生労働省が指針を用意しています。それに従って作成したものは、以下のリンクからダウンロードできます。なお労使協定には、「口座振込み等の対象となる従業員の範囲 口座振込み等の対象となる賃金の範囲およびその金額 取扱金融機関、取扱証券会社および取扱指定資金移動業者の範囲 口座振込み等の実施開始時期」を明記する必要があります(令和4年11月28日基発1128第4号)。これに従業員に説明するべき以下の事項(資金移動業者の口座への賃金支払に関する
資金移動業者向けガイドライン P21)を加えて作成しています。
- 資金移動業者口座の資金
- 資金移動業者が破綻した場合の保証
- 資金移動業者口座の資金が不正に出金等された場合の補償
- 資金移動業者口座の資金を一定期間利用しない場合の債権
- 資金移動業者口座の資金の換金性
また、同意書のひな型は厚生労働省が同様に用意しています。
デジタル給与の導入に必要な対応とは?
デジタル給与の導入には、企業側がいくつかの対応を行う必要があります。まずは、デジタル給与を導入する前に従業員にしっかりと説明し、理解を促すことが必要です。また、導入前には運用方法や仕組みについて徹底的に検討し、システムの導入や従業員への教育を行うことが重要です。さらに、給与支払いや金銭管理に関するリスクを徹底的に把握し、安全性を確保するためのセキュリティ対策を講じることも必要です。
同時に、従業員のプライバシーや個人情報を保護するため、適切な取り扱い方針を策定することも大切です。デジタル給与の導入にあたっては、企業側が最大限の配慮を行い、従業員との信頼関係を築くことが不可欠です。