クリニック開業に必要な健康保険の選び方!国保・医師国保・健康保険の違いを解説する

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クリニックを開業するにあたり、自分や従業員の健康保険の選び方は重要なポイントです。日本では社会保険が高額であることや、労使の折半の発生を加味すると、適切な健康保険を選ぶことが必要です。

クリニック経営において、健康保険を選ぶ際には、経営者(医師)・看護師・スタッフの3種類で検討をします。この記事では、医師国保と健康保険・厚生年金保険の違いについて説明し、クリニック開業に必要な保険の選び方を解説します。しっかりと理解して、安心してクリニックを開業しましょう!

もくじ

社会保険には何がある?

社会保険には、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険を指します。年齢で加入要件があったり、職業などによって重要度が変わったりすることを加味すると、おおよその方が加入している、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つを意図して社会保険という場合があります。

このうち、健康保険についてクローズアップしてみます。日本は、すべての国民が公的医療保険に加入することになっており、これを国民皆保険制度(こくみんかいほけんせいど)と呼んでいます。クリニックの方であれば当然この制度を知っているでしょう。

ここでいう公的医療保険とは、国民健康保険(国保)、サラリーマンなどが多く入る協会けんぽ(健康保険)、特定の職業用の保険(本ブログでは医師国民健康保険(医師国保)を取り扱います)のことです。

社会保険完備とは、どんな状態?

社会保険完備とは、クリニックで働くスタッフが健康保険、厚生年金保険、介護保険、労災保険、雇用保険の5つの社会保険のすべてに加入している状態を指します。これは、法律で定められた最低限の保険加入義務をクリアした状態であり、働く環境の安心・安全を保障するために非常に重要な要素となります。また、求職者にとっては、社会保険完備が求人条件に含まれている場合、働く上での安心感を得られるため、人材確保にもつながります。

医師国保とは?

医師国保は、医師会に所属する医師が加入できる健康保険の一つです。特に、開業医や地方の小規模な医院が多く加入しています。医師国保は、一般的な健康保険と比較して保険料が安く、医師会に所属しているため、地域の医療に密着した保険制度となっています。医師国保に加入することで、医師の社会保険料負担を軽減することができ、経営効率の向上にもつながります。また、医師国保には、自治体補助金制度があり、医院の経営を支援するための助成金が受けられる場合もあります。

個人開業医のクリニックの院長であっても、上記で紹介した中から健康保険に加入することが必要であり、その対象となる保険には大きな違いがあります。国保・医師国保の保険料は原則個人が負担するのに比べ、協会けんぽの健康保険の保険料は労使折半となっています。そして、医師国保は、地域や大学の医師会に所属する医師やその家族、従業員が加入できる健康保険ですが、加入要件があります。地区の医師会か大学医師会に所属する医師とその家族、従業員、開業医、医療法人に勤務する非常勤の医師などは第1種、従業員は第2種、医師の家族は第3種として加入できます。加入基準は医師会によって異なることがあるので、詳細は所属する医師会に確認するようにしましょう。

医師国保に加入するメリットは?

医師国保に加入するメリットは、定額で加入できるということです。サラリーマンが入る協会けんぽの保険は、料率で支払います。医師にこれを適用すると、かなりの金額が保険料として徴収されます。料率の比較をしてみましょう。

医師国保協会けんぽ国民健康保険
健康保険部分 金額/料率41,500円/月10.22%(年収1200万円、月収100万年で102,200円)68,333円/月(1200万円以上の給与の例として)
介護保険部分 金額/料率6,000円/月1.64%(年収1200万円、月収100万年で16,400円)14,167円/月(1200万円以上の給与の例として)
家族13,500円3号として無料2,419,500円
賞与についてなし給与分と同様の料率がかかるなし
協会けんぽは令和4年の大阪の参考値

医者の立場から見ると、医師国保一択になるかなと考えます。

医師国保と国保・健康保険の違い

医師国保と国保・健康保険の違いは、保険料の負担方法にあります。国民健康保険や一般健康保険は、原則として個人負担で、学生や生活保護受給者は例外です。一方、医師国保の場合は、医師が所属する医師会が保険料を負担するため、加入する医師は自己負担することはありません。また、国保との違いとして、医師国保には独自の保険制度があるため、医師自身の収入に合わせた保険料が設定されていること、さらには医療費が一定金額以上の場合でも自己負担割合が低いことがあります

医師国保に加入する場合、治療の受けられる施設に制限があることがあります。これを、「自家診療の給付制限の対象」と呼びます。健康保険法等に基づく医療保険制度では、医師が自身に対して診療を行った場合(自己診療)は保険診療として認められていません。よって、自家診療における薬剤給付についても対象となりません。ただし、勤務医師や代診の医師など他の医師による診療での医師自身の薬剤給付については対象となります。

医師国保と健康保険の比較

大きな部分として、健康保険は、支払者の負担が発生することが挙げられます。半額を病院やクリニックが負担する形です。なお、組織によってこの差をなくそうと、医師国保の場合でも半額負担としている場合があります。

料率なのか定額なのかという部分も大きな差です。医師の立場から見れば、医師国保の方が割安でしょう。ただ、事務員の方や一定の看護師の方から見ると、損益分岐点が分かれることがあります。

医師国保は出産育児一時金は支給されますが、出産手当金は支給されません。

出産一時金とは

出産育児一時金とは、健康保険法等に基づく保険給付として、被保険者またはその被扶養者が出産した際に支払われる一時金のことです。妊娠4ヶ月以上で出産した場合、一児につき42万円が支給されますが、産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は、40.8万円(令和4年1月1日以降の出産は40.4万円)が支払われます。協会けんぽなどの健康保険で女性被保険者が出産した際には、「出産育児一時金」及び「出産手当金」が支給されます。出産の費用に加え、出産休業期間中の生活費を補填するための支給となります。申請により、国民健康保険や国保に加入している人が受け取ることができます。

出産手当金とは

出産手当金は、健康保険に加入している女性被保険者が出産のために休業し、給与が支払われない期間に補助金として支払われるものです。出産のため会社を休みんでいる間受けられない給与の支払いについて、出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、出産手当金が支給されます。また、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます。

協会けんぽ・厚生年金の保険料はどうなる?

協会けんぽ・厚生年金の保険料については、労使折半となります。すなわち、クリニックの事業主と従業員、それぞれが保険料の負担をします。これに対し、国保・医師国保・国民年金は原則個人が保険料を負担しています。このため、クリニック経営者としては、協会けんぽ・厚生年金への加入による保険料負担の大きさを考慮しなければなりません。ただし、これらの差を是正するために、クリニックが半分を負担しているケースも見られます。

まとめ

医師にとってはほぼ一択ですが、従業員が5名以上で選べる協会けんぽなどに加入するかは、その場合によります。パートが多いなど、諸所の条件を考えて、検討しておきましょう。

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