源泉所得税の引き忘れは、とてもよくある話です。実務に慣れていないときなどあれば、よく出てきます。では、そういった引き忘れが脱税に当たるのでしょうか。また、2者がかかわるので、誰の責任か分かりにくいです。忘れた場合にどうなるかも含めて、一緒に見ていきましょう。
源泉所得税とは、いつかかる?
源泉所得税は、給与や報酬を支払う事業者が、毎月の支払金額から差し引いた後、国へ納付する税金です。この制度は、従業員が年間で受け取る所得に対する税金を従業員が確定申告する前に事前に納めることができるため、源泉徴収としても知られています。
法律によって規制されており、源泉徴収期限は、給与の支払い月の翌月10日までに納める必要があります。源泉所得税は、事業者にとって重要な国税であるため、正確かつ迅速に納税することが求められます。
忘れた場合はどうなるか?
企業が源泉徴収税を忘れることは極めてリスクがあります。納付期限までに納付が漏れた場合には、ペナルティが課せられることがあるからです。しかも、遅れたという事実がはっきりしているので、機械的に感じることもあります。
納税義務者が納めのは、誰か?
業務上のミスや理解不足によって、所得税源泉徴収の義務を怠ってしまう、そして納付をしなかった場合、誰が責任を追うのでしょう。それは、給料や報酬を支払う事業者です。
払うときの気持ち、の一例はこちらです。
給料を支払ったときに源泉所得税の分をもらい忘れたので、もらうまで待ってほしい
しかし、取らなかったのは事業者です。納めていないのも事業者です。給料や報酬をもらう人から、源泉所得税を取っていないくても、すぐさま納付する義務があります。
延滞税は無慈悲
事業主が源泉所得税の納付を忘れた場合、税金は納期限を過ぎた日から延滞税が自動的に課されます。これは、法律によって定められた期限までに納付されなかった場合の利子的な罰則です。
利息はこんな感じです。かなり高いはずです。
利率 | 原則 | 令和4年1〜12月 |
---|---|---|
忘れて2月以内 | 7.3% | 2.4% |
忘れて2月以降 | 14.6% | 8.8% |
さらに不納付加算税
事業者が源泉所得税を納めるのを忘れた場合、不納付加算税がかかる可能性があります。制裁的な要素があるので、以下の場合は、いったん見逃してもらえます。
- 過去1年間に期限後納付がない + 納期限から1ヶ月以内に納付した
- 不納付加算税の金額が5,000円未満となる場合
じゃあ、どう計算するのでしょう。
告知前 | 告知後 | |
---|---|---|
利率 | 5% | 10% |
8万円納付漏れの原則計算 | 4,000円 | 8,000円 |
10万円納付漏れの原則計算 | 5,000円 | 10,000円 |
上記の例だと、8万円を告知前に納付しているので、なんとか制裁的なものを免れています。
差し押さえ
税金の納付が漏れたまま無視していると、財産を差し押さえられる可能性があります。当然ですが、税務署から督促状が送付されて無視などするのは、危険です。
なお、財産を没収したとしても、すぐに手放すことはしません。差し押さえた物品を金銭に替えるまでの時間の猶予や納税の猶予をもらえます。
お金に替えるまで猶予してもらえる
「換価」というのが聞き慣れないですが、差し押さえた物品をお金に替えるという意味です。差し押さえ物品を処分せずに待ってもらえる可能性があります。専門用語では、換価の猶予といいます。
条件は以下のとおりです。
換価の猶予を受ける要件
- 納税すると、事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがあると認められる
- 納税について、誠実な意思を有すると認められる
- 換価の猶予を受けようとする国税以外の国税の滞納がない
- 納付すべき国税の納期限から6か月以内に申請書が提出されている
- 原則として、担保の提供がある
また、お金がないから納税を待ってほしいとすることも可能です。これを納税の猶予といいます。原則として1年以内の期間に限り、納税の猶予が認められる場合があります。要件は以下のとおりです。
納税の猶予の要件
- 次の(1)から(6)までのいずれかの事実がある
- 財産について、災害を受けたり盗難にあった
- 納税者や家族が病気にかかったり負傷した
- 事業を廃業したり休業した
- 事業で著しい損失を受けた
- 上記の(1)から(4)に類する事実があった
- 本来の期限から1年以上経過した後に、修正申告などにより納付すべき税額が確定した
- 猶予該当事実に基づき、納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められる
- 申請書が提出されていること(上記1(6)の場合は納期限までの提出)
- 原則として、担保の提供がある
こんな状況にならないように注意をしましょう。
立替に見えても、納付は払った人の義務
こういった内容というのは、税務署から勝手に判断をしたのではないです。裁判の例の積み重ねによって、上記のようになっています。
特に、誰が納付するかということです。実質、給料や報酬をもらった人から払っています。「代わりに払っているので、払い忘れたら、別の人が払えばいいんじゃないか?」と感じるかもしれません。しかし、実質は、もらった人ではなく、払った人に納付の義務があります。
これは要注意です。
給料か請負かで変わる源泉所得税
給料で源泉徴収忘れということは、あまりないかもしれません。注意するべきは、給料か報酬か分かれる場合です。ここは税務調査でも狙われることがあります。
少し文章が長くなっているのでここでは割愛しますが、ポイントでもあります。
受け取った側は?
取引先企業が源泉徴収をしていなかった場合、失念や解釈の相違などの理由が考えられます。従業員や士業等から源泉所得税を取り忘れていた場合は、追加で徴収しておくことが望ましいでしょう。次の支払いがあれば次から取ることもできます。返してもらうより楽でしょうから。
しかし、受け取った側も注意をしておく必要があります。
報酬の場合 相手に迷惑
源泉所得税の納付で相手に迷惑をかけると、日常的な取引に影響することがあります。仕事ができてもだらしないというか、良くないと。仕事の質で好かれているのに、うまくやれないというのは注意が必要です。
専門士業は 専門性を疑われるので注意
士業は、なにかしらの専門性があると見られています。そこで源泉所得税の漏れが相手にあったときに指摘しないというのは、専門性自体に疑問を持たれる可能性があります。注意が必要です。
所得税法、法人税法としては精算されている
なお、源泉所得税が相手側からもれていたとしても、確定申告や法人税の申告で、精算されるものです。期が終われば、売上としてきちんと記帳している分に関して、納税漏れが発生するわけではないです。
源泉所得税を理解して、お互い処理忘れがないようにしよう
源泉所得税をめんどくさいと感じている人は多いです。しかし、決められた制度でありきちんと履行するべき点です。間違ったときにごまかせるものでもないので、日頃からきちんと処理をするよう心がけておきましょう。